保持器がなくなったことでこの保持器とベアリング球との滑り摩擦はなくなりました。
では、残る摩擦要因は何があるでしょうか？

一つに、ベアリング球とベアリング内外輪の軌道輪との接触部で生じる弾性変形による弾性ヒステリシス損失(材料の内部摩擦によるエネルギー損失)があります。
曲率を持つ２物体が接触すると、接触部は点接触ではなく変形により楕円形の曲面となり、その面積は接触面圧に応じて大きくなります。
この接触面に関する研究はハインリッヒ・ヘルツの解析によりヘルツの接触理論として解明され定式化されています。
これらの材料の変形による内部摩擦は計算によって求めることができ、玉の場合には荷重の4/3乗に比例することが分かっています。

また、差動滑りと呼ばれる現象に起因する摩擦もあります。
上記のように、玉と軌道輪の接触部は湾曲した曲面の形状をとります。その状態で玉が転がると接触曲面の中心部と周辺部とでは自転する玉の回転径が異なることにより周速に差が生じます。
曲面内で周速に差が発生していますので、玉と軌道輪との間の接触面内で極微量な滑りの発生が必然的に残り、これが差動滑りと呼ばれる摩擦要因となります。
こちらもその大きさは計算により求められ、荷重の5/3乗に比例します。

上記の摩擦は、どちらも回転接触部が微小変形により曲面となることで発生する摩擦損失です。
当ベアリングでは標準的なベアリングで使用される鋼球の10倍程度もの硬さをもつセラミック球を使用することで変形量を減らし接触曲面の面積を極小化しています。
加えて、これらの摩擦はそれぞれ荷重に対して4/3乗、5/3乗と荷重の増加に対してより大きく摩擦が増加していきますが、11個のベアリング球を搭載することで玉１つ辺りに掛かる荷重を分散させ、一層の摩擦低減を図っています。

従来では、保持器とベアリング球との滑り摩擦がベアリングの摩擦の大部分を占めていたため、玉数の増加は摩擦の増加となってベアリングの回転性能に悪影響を及ぼす結果となっていました。一方、保持器のないADBでは玉数を増加させることでさらなる摩擦抵抗の低減を果たせるだけでなく、耐荷重性・安定性の向上といったベアリング性能の向上に寄与しボールベアリングの本来の特性を遺憾なく発揮します。